週末シンデレラ
車の鍵もつけているキーケースから、ひとつ鍵を選び、ドアのロックを解除した。
「ここなんだ。申し訳ないけど、ちょっとだけ待っていてくれないか」
「は、はい」
振り返る係長の顔を見られず、うつむいたままうなずく。係長がドアの向こうへ消えると、息をついた。
まだバレていないみたい。……だけど、部屋に入って落ち着いたら、わたしが“加藤詩織”だって言おうかな。そうしたら、ゆっくり話し合えるし。
話すタイミングを考えていると、ドアの向こうから、ドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。音が止まったと思ったら、目の前のドアが開く。
「お、お待たせ……どうぞ」
「ありがとうございます。では、お邪魔します」
ひとつ頭をさげて、玄関へ入る。靴は整頓されていて、玄関マットも敷いてあった。
「すまない。人を呼んだことがないから、スリッパがないんだ」
「いえ、結構です。綺麗にされているんですね」
2DKの部屋は、玄関を入るとすぐにダイニングキッチンがあった。片づけられていて、ひとり分の食器が整然と並んでいる。
あまりジロジロ見てはいけない、と思いつつも、物珍しくてつい部屋の中を見渡してしまっていた。