週末シンデレラ
き、緊張する……。
一本だけの歯ブラシや、洗顔用品が並んでいる白い洗面所で、大きく息を吐き出した。
正直に話すという緊張感もあったのに、今は係長の家でいるということで、さらなる緊張感に襲われている。
とりあえず、今の自分の状態を確認しないと……。
「あ……やっぱり、メイクが落ちてる」
どんな顔になってしまっているのか、鏡を覗き込むと、つけまつげはなんとかついているものの、アイラインもシャドウも薄くなっていた。
ほぼスッピンとなってしまった顔に、もうこのままウイッグを取って、係長に“加藤詩織”の姿をさらしてしまえばいいのかと思う。
「そっか……今こそ“サトウカオリ”が“加藤詩織”だと、言うべきとき……」
そう思い、ウイッグに手をかけていると。
「カオリさん、ちょっといいかな?」
「は、はいっ」
洗面所の扉がノックされ、わたしは反射的にウイッグへ伸ばしていた手を引っ込めた。
「すまない。ドライヤーがそこに入っているんだけど、言っていなかったと思って」
「あ、ドライヤー……」
「あれ、ちゃんと拭いた? まだかなり濡れているみたいだけど」
「ふ、拭いてますっ」
「返事はいいけど、かなり水が滴っているぞ。見ていられないな」
「え……? あっ」
係長は新しいタオルを取ると、わたしの頭にかける。そして、力を込めてガシガシと拭き始めた。