週末シンデレラ


「けど、式の日取りも決まったある日、彼女が姿を消したんだ」
「え……ど、どうしてですか?」

「じつは彼女には、征一郎を紹介される前から、付き合っていた男がいたんだ。その男っていうのが、何人も彼女がいるようなホストで。彼女の父親である取引先の社長は、娘が遊ばれているんじゃないかと心配したらしい」

「それで……営業で来ていた都筑係長を紹介して、結婚させようとしたんですか」
「うん。真面目な征一郎なら娘を任せられると思ったんだろう」

係長の仕事ぶりを知る人なら、難しい人でも気に入ると思う。

「でも、婚約まで成立していたっていうことは、その子も都筑係長に対して好意を寄せていた……っていうことですよね?」

「それが、その娘には『征一郎と結婚すればホストとの遊びも認める』って条件を出していたらしい。だから、彼女もその条件を飲んで、征一郎を落とすために、本性を隠して純情なフリをして、彼氏なんていないと嘘をついて……。でもやっぱり最後の最後で、好きな人と一緒になりたいって思ったみたいで、ホストと駆け落ちしたんだってさ。結局、三か月で破局して、家には帰って来たらしいけど」

将来を約束した人に裏切られ、ひとり残された係長の気持ちは、どんなものだったのだろう。

聞いているだけで、涙が出そうになる。一也さんも、やるせなさそうに息をついた。


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