週末シンデレラ


「話も聞いてくれないって……そりゃ、嘘をつかれて怒るのはわかるけど、付き合いたいと思っていた人を、そうやってすぐに拒絶できるものかな?」
「どうかな……人それぞれ、考え方とか感じ方とかあるし」

係長のトラウマについては、彼のことを考えると美穂には言えなかった。

「今日の様子が変なのって、詩織のことを受け入れようとしてるんじゃないかな?」
「そんなことないと思う……メールの返信もないし」

土曜日も日曜日も、謝罪のメールをしたけど返信はいっさいなかった。受け入れるというより、忘れ去ろうとされている気がする。

食堂でご飯を食べ終え、事務室へ戻っていると、隣で歩いていた美穂に肘で脇腹を小突かれた。

「ほら、詩織っ」
「え? あっ……」

美穂に小声で囁かれ、前を歩いている人物に気づく。係長だった。

……なんか、フラフラしてる……。

係長は壁にぶつかりそうになりながら、力が抜けたように歩いていた。

背を向けているので、こちらには気づいていないようだ。しかし。

「お疲れさまです」

美穂が背後から声をかけると、ハッとして振り返り、眼鏡をグイと押し上げた。

「お疲れ」

そう言うと、姿勢を正して歩き、先に事務室へ入ってしまった。

「やっぱり詩織のこと、意識してるっ」
「そ、そうかなぁ……」

嬉しそうに言ってくる美穂に、わたしは苦い顔しかできなかった。

結局、それから係長と話す機会もなく、メールの返信がこないまま、社員旅行の日となった。


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