週末シンデレラ


本当は「ご苦労さま」って言ってもらえるだけで、充分なんだけどな……。

そう言いたいけれど、今までのわたしは係長にビクビクしていて、そんなことを言うキャラじゃない。

それに“カオリ”じゃないか、と疑われそうな気がしてやめた。

「都筑係長……ちゃんと、係長のおっしゃりたいことは伝わりましたから。それでは、おさきに失礼します」

そう言って頭をさげ、帰り支度を整えようと自席に戻る。すると。

「あ、あの……加藤さんっ」

バッグに荷物を入れて、事務室を出て行こうとすると、係長に引き止められた。

「はい?」

まだなにかあるのだろうか。

係長のほうを振り返ると、彼は眼鏡のテンプルをいじりながらうつむいている。その姿には見覚えがあった。

「……お疲れさま」
「え?」
「その……加藤さんがいてくれて、助かったよ」

係長は言い終えると、すぐに背中を向けてしまった。身体を反転させる瞬間に見えた耳は、赤く染まっていた。

もしかして係長は、頑張ってわたしに気持ちを伝えてくれているのだろうか。

「いっ……いえ、お疲れさまでした」

思わぬ係長からの言葉に、動揺で声が上擦る。

事務室を出てからも、心臓はしばらく、爆発しているかのようにバクバクと鳴っていた。


< 59 / 240 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop