俺様編集者に翻弄されています!
 ベストセラーになった「愛憎の果て」のおかげで、釣られるように他にも出しているタイトルもなんとか売れてきている。

 自分で言うのもおこがましいが、悠里はようやく売れっ子の域に到達したと最近になって実感するようになった。

 けれど、それもこれも加奈が営業部に掛け合ってくれたり、編集なのに営業部の仕事並みに悠里の小説を推してくれたバックアップあってこそだった。

 その頼りにしている加奈がいなくなるという不安が悠里の心を揺るがした。

 長年築いてきた絆だからこそ安心して執筆に集中できたものの、それをも凌ぐ絆を新しい編集者と築いていけるのだろうかと不安になった。


「私も実際に氷室さんとお話ししたことないんだけど、すっごくいい人だって、そして彼が担当した小説家は瞬く間にミリオンセラー小説家になるって噂だよ。私も期待してるから」


「もぉ、人ごとみたいに言っちゃって……」


 バシバシと肩を叩く加奈に、悠里は苦笑いをするしかなかった。



 その時―――。
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