俺様編集者に翻弄されています!
 ホテルの部屋にずっといても息が詰まりそうだった。


 悠里はフロントに鍵を預けてひとまず周辺を散策することにした。


 ニューヨークは東京の都心部と似ているところもあり、また全く異なることもあって、歩いているうちに悠里は本来の目的さえ見失いそうになってしまった。


「Hi. Have you got a cigarette?」<ねぇ、煙草持ってない?>



「え……?」


 いきなり正面から浅黒い肌をした金髪の女に声をかけられて、悠里はしどろもどろになって狼狽えた。



(シガレット? シガレットって言ったよね? 煙草持ってるかってこと?)


「ノ、ノー……」


 悠里は首をブンブンと振りながらそういうと、その女はなにかボソボソと文句を言いながら去っていった。


(び、びっくりした! 知らない人にでも平気でそんなふうに声かけるんだ……)


 悠里は過ぎ去った一難にほっと胸をなでおろし、気を取り直して目の前の売店でホットドッグと飲み物を買ってベンチに座った。



(これからどうしようかな……)



 何も計画を立てずに、行き当たりばったりで来てしまったニューヨーク。


 悠里の周りにいる人は同じ人間なのにまるで全く違う生き物に見えた。


 再び押し迫る疎外感に、悠里はため息をついて飲み終わったカップをゴミ箱に捨てた。



 ふと目をやると、ストリートパフォーマーがあちこちにいて、行き交う人の注目を集めていた。子供がはしゃぐ声や、パチパチと手を叩く音に、悠里はほんのひと時でも和やかな気持ちになれた。



(東京じゃ滅多にこういう光景みないな……。私の知らない街……あ、そういえば)


 悠里はなにか困ったことがあったらいつでも言ってきて、と言われて渡されたロディの名刺を、思い出したように取り出した。



(困ったことっていっても、こんな個人的な人探しにつきあわせるのも……ん?)


 バッグの中から名刺を取り出し、なにげなくそこに書かれたロディの会社名に目が留まる。


 M&J publishing chief editor

 Rody 正隆 Arendt―――。


(正隆……って、もしかしてあの人、日本人とのハーフだったのかな? でも、この会社名どっかで……どっかで――)



 M&Jという響きが、悠里の記憶を辿っていく。


「っ!? M&Jパブリッシング!?」


 その記憶にたどり着いた悠里は思わず勢いよく立ち上がった。




 ―――五番街だよ、M&Jパブリッシングだ。まぁ、あいつがその会社に出戻ってるかわからないけど、当たってみる価値はありそうかな。


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