隣に座っていいですか?
桜ちゃんの姿を
最近見かけない。
はて
どうしたのだろう。
夏休みだからおばあちゃんの家にでも行ったか?田辺さんとおでかけ?
いや
あの田辺さんなら
一泊二日のおでかけでも『郁美さん!荷物がまとまらない!』って泣きついてくるだろうな……って
違うか
婚約者がいるから
今は全部やってもらってるのかな
ひとりで
突っ込んで漫才してるな私。
バカみたい。
「桜ちゃんの顔見ないなー」
以心伝心か?
怖い顔したお父さんが厨房で独り言。
「郁美。ちょっとこれ持ってけや」
そんな声が聞こえ
ふと振り返ると
ポーンと打ちたてのソバが飛んできた。
「ちょっと」
ソバ飛ばすな!
「桜ちゃんの様子見て来い」
上から目線で命令され
私は隣の豪邸へと向かう。
足取りは重い。
何でこんな重いんだ?
ただのお隣さんじゃん。
田辺さんいないかもしれないし
桜ちゃんの顔見て帰ろう。
門を開き
庭に入ると
大きな桜の木が私を迎える。
小さな白いテーブルと
小さなベンチ。
ここに
肩を並べて座って
散りゆく桜を見ながら
美味しい紅茶をごちそうになって
奥さんの話を聞いたんだ。
遠い昔の出来事みたい。