隣に座っていいですか?

嬉しそうに買ったばかりのTシャツを着て、隣の実家に走って行った桜ちゃん。

「張り切ってますね」

台所に入り
夕食の用意をする私に優しく声をかける彼。

『張り切ってますね』
桜ちゃんに言ってるのだろうか
それとも私か?

アスパラを洗いながら「うん」って気のない返事をしていると、彼が背中からそっと抱きしめる。

「運動会に向けて気合が入ってるのは、桜だけじゃないようですね」
笑って言われた。

だから私は
甘えてそっと彼の胸に背中を預ける。

背の高い彼に包まれ、大きく深呼吸。

「紀之さん」

「はい?」

「私、新米ママだから自信がないの」

疲れているのか
素直になってしまう。

「みんな自分の子供を赤ちゃんの頃から育ててきたお母さん達で、子供の事をしっかりわかっていて……私は一生懸命頑張ってるけど、まだまだ追いつかない」

説明が上手くできない。

「もっともっと頑張らないと、亡くなった奥さんに対しても、桜ちゃんに対しても申し訳ない」

結局
血の繋がりに負い目を感じているのは、私なんだろう。

知らないうちに
ポロポロと涙が出てしまう
あぁ
本当に情けない。

涙を拭こうとすると
グイッと身体を方向転換させられて、私は彼の胸に包まれしっかり抱かれる。

温かい。

「桜に対する郁美さんの愛情は、他の人には負けません」

優しい声に泣きながらうなずく。

「郁美さんは一生懸命頑張ってます。だから僕も桜も亡くなった妻もあちらの両親も心から感謝してる」

そっと顔を上げられ涙を拭いてくれた。

綺麗な優しい顔が私を見つめる。

「僕も桜も、郁美さんが大切で大好きで愛してる」

「……うん」

「大丈夫。リラックスして楽しもう」

「うん」

「愛してる」

そっと唇が重なる寸前

視線を感じた。
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