桜縁



その貢献に顔を背けられずに、その老人を助けようと、手を伸ばそうとする月。


だが、素早く斎藤がその手を止めた。


「!」


「今、助けたらこの老人も俺達もただではすまん…!」

斎藤の表情は真剣そのものだ。


握られた手に力がこもる。


だが、月はその老人から目が放せなかった。


今すぐにでも助けたい……!


目に熱いものが込み上げてくる。


月は引きずられて行く老人が見えなくなるまで、その場から動けずにいた。








月と斎藤が戻ったのは、それから数刻経ってからだった。


日はすっかり暮れてしまい、夕食の時刻はとっくに過ぎていた。


斎藤が屯所の門をくぐると、食べ終わったであろう平助が、ちょうど通りかかった。


「あれ、一君!」


その姿を見つけるやいなや、平助がやって来る。


「どうしたんだよ?夕食の買い出しとか言って、出てったきり帰って来ないから皆心配してたんだぜ?」


「すまぬ。急用が出来てな。すっかり遅くなってしまった。」


そう言う斎藤の顔が少し暗いように見えるが、その背におぶさっている月が目が入る。


「月……!」


慌てて月の方へと駆け寄る平助。


ぐったりとしていて、意識がないようだ。


「いったいどうしたんだよ、一君!?なんで月がこんなことになってんだ?まさか、浪士にでも絡まれて怪我でもしたのか!?」


「落ち着け平助。月はただ気絶しているだけだ。念のために医者にも診せたが、大事ないそうだ。次期に目が覚めるだろう。」

「なら、良いけど……、なんでそんなことに……。」


「俺は副長に報告するゆえ、月を頼む。」


「ああ、分かった。」


平助は斎藤の背中から月を下ろし、自分の背中におぶさらせた。


「それと平助。総司は何処にいる?」


「ああ…、あの蛍とかいう姫さんと一緒だぜ。」


「早くに部屋に戻るように、伝えておけ。」


「……ああ、分かった。」


斎藤は平助にそれだけを伝えると中へと戻って行った。










「副長。」


「斎藤か?」


「はい、失礼致します。」


斎藤はゆっくりと部屋の中へと入る。部屋には近藤もいた。


「夕刻時はご心配をおかけしたと聞き、お二人にお詫びをしに参りました。」


「詫びなど、そんなに畏まらんでもいい。君がそこにいるということは月さんも無事なのだろ?」


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