桜縁
二人が無事ならそれでいいと言わんばかりの笑みを近藤は讃えていた。
「は、はい。一応…。」
「なんだ?どうかしたのか?」
斎藤の曖昧な返事に違和感を感じた土方が尋ねる。
「実はここへ戻る途中、会津兵達が罪のない長州の民達を奴隷として、この京へ引いて来ていたのです。数にして数十名程度でしたが、中には幼子や老人もおりました。」
「なる程な。池田屋の一件ですっかり味をしめちまってるようだな。馬鹿な奴らだぜ…。」
過激派浪士を制圧したからといって、長州が戦力を失ったわけではない。それに姫を人質にしてると言っても、長州の牽制と内情を探る手段であり、殺したところでこちらが得になることはないのだ。
それに長州は過激派を捨てようとまでしていた。
姫の人質も関わっている故、いくら長州を撃退出来たとはいえ、無意味な挑発は無駄な火種を生むだけだ。
このままでは長州も黙っていないだろう…。
「老人や幼子まで…、酷いことをするものだな…。」
「はい。」
「それで、月の奴がどうした?」
「はい、それを目の前で見たためか、意識を失いまして、戻る途中医者に診せたところ心労によるものだと申しておりました。今は、部屋で休ませております。」
「分かった。お前も部屋に戻って休め。飯食ってないだろ?まだ、勝手場に残ってるはずだから、持って行って食え。」
「はい、ありがとうございます。」
斎藤は軽く会釈をすると、部屋を後にした。
「やはり、女子には見るにきつかったのだろうな…。かわいそうに…。」
涙ぐむ近藤。
「に、しても気にくわねぇ。確かに池田屋の一件で長州を怒らしちまったのは事実だが、まだ動くには早すぎる。今回は勝利したかもしれねぇが、人質を盾に民を虐待するのは別問題だ。」
「確かに……。」
「長州の高杉って野郎は、戦に長けてやる。近いうちに今回のしっぺ返しが来るに違いねぇ。」
「だな。巡察の強化と監察型にも長州の動きを強化すると伝えておいてくれ。大事ないといいのだが…。」
「分かった。」
土方は長州の動きに備えるために、仕事へと戻る。
京の都に平和が訪れるのは、まだ先のことであった……。
月は再び不思議な夢を見ていた。
雪がふぶく広い戦場に一人立っているのだ。
なぜそんな所に立っているのか分からない。