桜縁
さらに、もう一枚の人相描きが目に止まる。
「ん…?こいつは誰だ?」
その者は隊士達と同じ格好をしているが、どうやら女のようだ。
「さあ、私共もわかりませんが、生き残りの者が死に間際に、そのような者がいたと聞きましたので……。」
戦に女……?
新撰組は完全なる男所帯。
女がいるはずもない。
「……………。」
高杉は不思議に思いながら、その女の絵を見ていた。
高杉は過激派による反発を押さえるために、池田屋で犠牲になった『吉田麿』と藩士一人の遺体を収集し、皆の前で葬儀を上げる。
他の浪士達の遺体も収集したかったが、叶わずに、二人だけが主君の元に戻ったのだ。
「民達を藩邸前に集めたか?」
「ああ、すでに集まっている。」
高杉は迎えに来た桂に、浪士達を殺害した新撰組隊士の人相描きを渡す。
だが、ひとつだけ支えきれず床に落ちてしまう。
「あっ…。」
思わず拾おうとするが、その絵を見て拾おうとした手が止まる。
「どうした?」
「あ、いや……。」
高杉の声に我に返り、慌てて絵を拾い上げる。
「そういえばお前は、沖田と最後にやり合ったと言っていたな? その中にその女がいたのか?」
「………。」
「そいつ、あれだろ?前にお前が会津藩主に見合い相手にさせられた新撰組の女だろ?」
「なぜ、分かった? 彼女のことはもうかなり前のことだぞ?」
「はっ!そんなことも分からんようじゃあ、藩主なんてやってられん!……お前がそれを落とした時に見た顔……、あれはそいつを知っている顔だった。だとしたら、それしかないだろ?」
伺うように、でも確信したように高杉は桂を見ていた。
今の一瞬の間で、そこまで見透かすとは大したものだ。
さすが、この長州の藩主だけある。
「ああ、その通りだよ。」
あえて冷静に対応する桂。ここで、何かを言ったからといって状況は変わりはしない。
「……いいのか?」
「なにが?」
「なにがじゃねぇよ!お前はいいのかって聞いてんだよ!?」
「だからなにがだよ?」
「ったく!この鈍感石頭が!!お前なにも分かっちゃあいねぇな!?」
「だから、なんなんだ急に?」
「急にじゃねぇよ! お前はこれからどういうことになるか分かってて、そんな鈍いことを言ってんのかよ!?」