桜縁
会津や幕府は昼夜問わず我が物のように、長州から民を労役のために都に引いて来ている。
新撰組も幕府側だから、町の人から向けられる視線は痛い。
いつか、長州が反撃に出るのではと土方や近藤達は警戒しているらしい。
出来れば長州と戦なんてしたくはないが、この時代にそんなことは言ってられない。
いつでも戦に備えられるように準備しておかないとならないのだ。
月はいつものように三番組に同行し、夜の巡察を手伝っていた。
いろいろなこと考えてしまうから、この方が気が紛れるというものだ。
夜も寝静まった頃に、巡察を終えて屯所に戻る。
隊士達は一気に緊張の糸が解けて、眠たそうに中へ戻って行く。
「何をしている?戻らないのか?」
部屋へ戻ろうとしない月に斎藤が尋ねた。
「はい、やることがまだあるので…。」
「やること?このような時間からまだ、やることがあると言うのか?」
「はい…、まだ繕い物とかが沢山残っていて…。」
「そのような物、昼間にすればいいだろ?休まぬとまた以前のように倒れるぞ?」
呆れたような口ぶりで叱り付ける斎藤。月のことを心配して言っているのは、その言い方の優しさから分かった。
だが、月もこのまま眠るわけにはいかない。
「大丈夫です。同じ失敗はそう繰り返しませんから。」
「そうには思えぬがな…。」
「え……?」
「昨夜もその前も、お前はずっと眠っていないだろ?真っ青な顔色をしているぞ?」
「そ、そうですか…?」
慌てて月は自分の顔に手を当てる。
ずっと張り詰めているから自分では全然気づかなかった。
「でも、早く終わらせないと……。」
「そこまで多いのなら、本人に返してやらせればいいだろ?何故、断らない?」
「だって、女の私には限られた仕事しかありませんし、そんなことで皆の手を患わせたくないんです。」
雑務なら自分がすれば良い。
新撰組の仕事には男しか出来ない仕事が多く、女の月にはほとんど仕事がないくらいだった。
だから、そういう雑用があるほうが返って助かるのだ。
「皆さんの役に立てるわけですから、私は全然構いません。それに一度自分でやり出した仕事ですから、それをやらずに休むのはちょっと……。」
「そんな疲れた顔をして、ちょっとと言うか……。お前は責任感が強いが少し頑固なところが困りようだな。」