桜縁
「俺では力不足だ。だから、二人を呼ぶ。」
「私が言いたいのはそういうことじゃなくて、なんでその二人なのかって聞いてるんです!」
「二人は裁縫の経験者だからだ。」
「………は?」
一瞬にして月の思考回路が止まって、頭の中が真っ白になってしまう。
二人が裁縫が出来る……?
何かの間違いのような気がするが、斎藤は本気のようだ。
「二人の力を借りればなんとかなるだろう、そこで待ってろ。」
「ちょっと待って下さい!!二人はもう寝てるんですよ?寝てるの起こすのかわいそうじゃありませんか!?」
あわてふためきながら、言い訳のような事を言う月。
なんとかして、斎藤を止めなければ明日どころか、日の目を見られないことになる。
なんとかそれだけは阻止しなくては…!
「しかし、それではお前が…。」
「分かりました!休みます!ちゃんと休みますから、二人は起こさないで下さい!」
「本当か?」
「本当です。」
斎藤は疑いの目で月を見る。月はそれに答えるようにしっかりと、その目に応える。
「……なら、いい。…が、何処へ行く?部屋は反対だろ?」
納得したのもつかの間、月は部屋とは反対方向へと踵を返していた。
「勝手場です。明日の仕込みをしないといけませんから。」
「……お前は全然分かっていないのだな。」
「やはり、二人を…。」
「わーー!分かりました!それだけは勘弁して下さい!」
「まったく、お前という奴は楽を知らないから困る。」
そう言って斎藤は優しく月の頭に手を乗せる。
優しさと温かみが頭の上に広がる。
「それは斎藤さんもですよ?この前も夜通し、お仕事されてたでしょ?」
「あれは…!……ん、ということは、お前はその前からずっと…!」
「?」
問い正そうとしたが、屈託ない笑顔で月が斎藤を見上げていた。
そんなことさえ、苦労に思えないところが月の特質といったところだ。
「明日は俺も非番ゆえ手伝う。だから休め。」
本当に月に休んで欲しいのだ。
それだけ心配させてしまったのだろう。
「分かりました。おやすみなさい。」
月は折れて斎藤に会釈をすると、部屋の方へと歩き出した。
「…………。」
しばらくして、斎藤は月の部屋の前へと来ていた。
「やはりな。」
予想通り月は起きていた。