桜縁
「?」
訳が分からないといった表情で小首を傾げる斎藤。
「いつも冷静な斎藤さんでも、そんなに慌てることがあるんだなーって思っただけです。それが少し意外で……。」
「意外…か。」
「はい、意外です。」
納得がいかないようだったから、ハッキリと言う月。
「……まったくお前という奴は…。師匠をからかうものではない。」
「す、すみません…。」
「………ふぅ。」
ため息をつきながら斎藤が月の頭に手をおく。月はそっと伏せていた目線を上げる。
斎藤は目を細めて笑みを浮かべていた。
「お前は泣いたり笑ったり…、本当に忙しい奴だな。」
「え……?」
泣いたり……?
意外な言葉に目を丸くする月。
「お前のような女。総司にはもったいないくらいだ。いっそうこのまま俺の女にしたい。」
「……!」
斎藤は優しく微笑みながら、月の髪に指を絡ませ、スルリと滑らせる。
「だ、ダメですよ!そんなこと言って、からかおったってそうはいきませんよ!」
顔を赤くしながら慌てて斎藤から向きを変える月。
「からかって言っているのではないと、お前は知っているだろ?俺はいつでも本気だ。」
「!」
なんでそういうことを、真剣にサラっと言ってしまうのだろう…。
胸の中で色んな想いが、一気に溢れ出し、全てを斎藤に打ち明けてしまいたくなる。
なにもかも打ち明けて、斎藤に受け止めてもらい、その言葉の通りにしたら、どんなにいいだろう…。
沖田のことも、蛍のことも、長州も、故郷も……、きっともう悩まなくてすむ。
斎藤は全てを受け止め、優しく包み込み愛してくれる人だから……。
いっそうこのまま……。
そう、月の内で想いが揺らぐ。
だが決まってそんな時は、
ーー僕のお嫁さんになる人だよ。美人でしょ?
と、あどけない表情で笑いながら、子供達に話した沖田の顔が頭に浮かぶのだ。
「…………。」
月は黙ったまま斎藤に背を向けていた。
「まあ、いい…。お前は俺がそう言っても、総司のことが好きなのだろ。」
「………ごめんなさい。」
「謝るな。お前を諦めきれない俺が悪いのだ。」
そう言って斎藤が立ち上がる。
「そろそろ行かないと、また総司の奴にお前が誤解される。お前も支度をして、出て来い。」
「…………。」