桜縁




「?」


訳が分からないといった表情で小首を傾げる斎藤。


「いつも冷静な斎藤さんでも、そんなに慌てることがあるんだなーって思っただけです。それが少し意外で……。」


「意外…か。」


「はい、意外です。」


納得がいかないようだったから、ハッキリと言う月。


「……まったくお前という奴は…。師匠をからかうものではない。」


「す、すみません…。」


「………ふぅ。」


ため息をつきながら斎藤が月の頭に手をおく。月はそっと伏せていた目線を上げる。

斎藤は目を細めて笑みを浮かべていた。


「お前は泣いたり笑ったり…、本当に忙しい奴だな。」


「え……?」


泣いたり……?


意外な言葉に目を丸くする月。


「お前のような女。総司にはもったいないくらいだ。いっそうこのまま俺の女にしたい。」


「……!」


斎藤は優しく微笑みながら、月の髪に指を絡ませ、スルリと滑らせる。


「だ、ダメですよ!そんなこと言って、からかおったってそうはいきませんよ!」


顔を赤くしながら慌てて斎藤から向きを変える月。


「からかって言っているのではないと、お前は知っているだろ?俺はいつでも本気だ。」


「!」


なんでそういうことを、真剣にサラっと言ってしまうのだろう…。


胸の中で色んな想いが、一気に溢れ出し、全てを斎藤に打ち明けてしまいたくなる。


なにもかも打ち明けて、斎藤に受け止めてもらい、その言葉の通りにしたら、どんなにいいだろう…。


沖田のことも、蛍のことも、長州も、故郷も……、きっともう悩まなくてすむ。


斎藤は全てを受け止め、優しく包み込み愛してくれる人だから……。


いっそうこのまま……。


そう、月の内で想いが揺らぐ。


だが決まってそんな時は、



ーー僕のお嫁さんになる人だよ。美人でしょ?



と、あどけない表情で笑いながら、子供達に話した沖田の顔が頭に浮かぶのだ。


「…………。」


月は黙ったまま斎藤に背を向けていた。


「まあ、いい…。お前は俺がそう言っても、総司のことが好きなのだろ。」


「………ごめんなさい。」


「謝るな。お前を諦めきれない俺が悪いのだ。」


そう言って斎藤が立ち上がる。


「そろそろ行かないと、また総司の奴にお前が誤解される。お前も支度をして、出て来い。」


「…………。」


< 194 / 201 >

この作品をシェア

pagetop