桜縁
「それと、今日は三番組の隊士達の稽古に参加しろ。お前は俺の弟子だから、それなりに強くないと示しがつかん。」
「……分かりました。」
月のか細い返事を聞くと、斎藤は黙って反対の襖から部屋を後にした。
また、斎藤の心を傷つけてしまった…。
男と女ではどうしても、斎藤を選ぶことが出来ない…。
どんなに想っても考えても、月の内には沖田しかいないのだ。
それをかえって自覚することになり、月は斎藤が出て行った方を向き、深々と頭を下げた。
今、女として出来ることはそれしかない……。
月は頭を上げると同時に、気持ちを切り替えて身支度を整え始めた。
沖田と蛍は互いにご飯を一緒に食べたりすることがあるが、目立ってこれといったことがなかった。
月にしてみれば不幸中の幸だが、監視状態にある蛍が、少しばかり不憫でならなかった。
沖田はまったく気にすることなく、いつもどおり隊務を行っていた。
囚われのお姫様をいきなり懐柔するのは、どうも気が引けるらしく、蛍の世話役が来るまで、何もしない気らしい。
どちらかと言えば、めつけ役がいない時の方が聞き出す機会だと思ったのだが…、
「君って本当に頭が悪いよね。」
と、久しく隣に座っていた沖田にため息まじりに言われた。
「えっ?だってその方が都合がいいじゃないですか?」
巡察途中で買って来た団子を、二人で縁側に座りながら頬張る。
「そんなことをしたら、あのお姫様ますます僕のこと好きになっちゃうじゃない。」
呆れながらも自信満々で言いながら、団子を口に運ぶ。
「え?」
「僕が蛍を懐柔するってことは、あの人をよりいっそう好きにならせるってことだよ?」
つまり、絶対の信頼を勝ち得るには、蛍との愛を深めないといけないということだ。
いくら都合がいいとはいえ、好きでもない女を側におくということはめんどくさいものであった。
「それでも君は平気なの?」
「えっ……!?」
いつの間にか沖田が顔を覗き込むように月を見てニヤリと笑っていた。
肩を抱かれて、あと少しで唇が触れそうな距離。
そんなに見つめられたら、どう反応していいのか困ってしまう。
「蛍と好きあっても、本当君は平気なの?」
「沖田さん……、んっ…。」
唇が優しく触れ合う。
固くなっていた気持ちを解すようなそんな口づけ。