桜縁
そして、ようやく離れる。
「……大丈夫だよ。僕は浮気なんてしないから。安心して。」
耳元で囁くように言う。
もう月の顔は真っ赤になっているだろう…、それを隠すように顔を沖田から背けた。
「別にそんな心配はしてませんから…!」
「ならいいけどね。とにかくまだ懐柔する気はないよ。それに、蛍は新撰組にとっては敵でも、月ちゃんにとっては同胞でしょ?いくら人を斬っても、長州が君の故郷には変わりはないし、君の両親やお兄さんを見つけるためにも、道は残しておかないとね。」
「…………。」
蛍を懐柔することは、ますます月が長州に帰れなくなる理由を作るということだ。
ただでさえ、長州から恨みを買っているのだ。今頃長州は新撰組や月達を捕らえようと躍起になっているだろう。
「そんなこと、もう覚悟の上でしたから。もうとっくに長州へ帰ることは諦めます。」
「そんなこと言って…長州の民達を見て倒れたくせに。それに変な夢を見るからって言って、夜あまり寝てないんじゃないの?」
「……よくご存知ですね。」
「付き合い長いからね。で、本当のところどうなの?長州に行きたい?」
「……行きたいか行きたくないかと聞かれれば行きたいですが、長州に恨みを買ったのも事実ですし、捕われても仕方がないと思います。でも……、やっぱり気になるんです。両親や兄のこと…そして何故自分が殺されないといけなかったのか、その理由が知りたいんです。」
「自分が殺されるかもって知ってても?」
「はい。でもそれを知るだけでいいです。私はそれで満足ですから…、でも、夢を見るのが怖いんです。誰かが私を殺そうとしているそんな夢を見るのが怖いんです。」
眠ってしまったら、両親が誰か、殺される原因は何か分かるかもしれない。それを知るのが怖くて堪らない。
そして、未来の夢をみることも…。
今や寝ることは月にとって恐怖でしかなかった。
「でも寝ないのは良くない。身体に悪いし、なにより戦いになったとき集中出来ない。」
「はい……。」
「君に倒れられても迷惑だし、自己管理も出来ないようじゃあ、殺されても文句は言えない。」
「………。」
「でも、長州の情報が何か手に入ったら、すぐに知らせてあげる。それにもうすぐ、世話役の人達が来るし、君自身も何か手がかりになるようなそんなこともあるかもしれないからね。」