桜縁
「それ程までして、戦いたい理由とは何?」
「それは…蛍様には関係のないことです。」
「なに?」
「私はもう蛍様の侍女ではないのです。秘密を蛍様に何もかも打ち明ける必要はないはずですが。」
蛍の疑いの目を避けるように、言葉を交わす月。
理由など聞かれても答えるわけにはいかない。
それが返って蛍のカンに障ったのか、眉間にシワを寄せる。
「なに? お前は自分がどういうことを言っているのか分かっているのか?私は姫なのだぞ?長州の者なら、答える必要があると思うが?」
「私の主は蛍様ではありませんので、これで失礼いたします。」
それ以上は無用だと言わんばかりに、月は話しを打ち切り、会釈をして部屋を出た。
「………。」
一つため息をつく。
やはり蛍に会う度に、罪悪感に襲われる。
長州の民であったことも、その地に住んだこともないのに、勝手に心が痛むのだ。
人は誰しも一度は故郷を求めるというは、本当のことなのかもしれない。
戻ろうと踵を返すとちょうどそこへ沖田がやって来た。
その後ろには二人の女性の姿があった。
「沖田さん。」
「ここで何やってるの?」
「昼食の準備が出来たので、届けに…。沖田さんもお膳を用意しますか?」
「いや、いい。今日は皆と食べるから。それと、この人達が長州から来たから、蛍の世話はもうしなくていいよ。あと、土方さんが君を呼んでたから早く行きな。」
「分かりました。それじゃあ…。」
軽く会釈をして、隣をすれ違うように月がお清達の横を通って行った。
「……!」
間違いなく今の娘が、長州藩高杉晋作の娘【薫】だ。
お清は追いかけた気をぐっと抑え、その背を見送る。
「どうぞ。」
沖田に招かれ美佐が部屋へと入る。
動揺していることがばれないよう、お清も月を気にしながら中へと入って行った。
沖田は気を効かせたのか中へは入らなかった。
部屋には三人だけとなる。
「姫様…!」
「お清!」
二人は部屋に入るなり、お互いに駆け寄りその存在を確かめる。
「大丈夫でしたか?怪我などされていませんか?」
「ええ、大丈夫よ…。お父様やお母様は元気にしておられる?」
「はい。二人共姫様の無事を祈っておられました。」
「ありがとう。……美佐、あなたも来てくれたのね。」