甘い蜜
でも楽しい時間は、すぐに過ぎてしまうもの。
ーーーやっと少し仲良くなれたのに。
黒服が、1セット終了を知らせにやってきた。
「お客様、延長はいかがですか?」
凛はすかさず智也の腕を掴む。
「智也、延長したらちょうど閉店なの。
どうせなら最後までいようよ」
「んー。どうしたい?」
智也は悩みながら、翔琉に聞いた。
答えない翔琉にさらに、
「翔琉、お前決めれ」
と、智也が言う。
あたしは黙ったままの翔琉を見たけど、やっぱり横顔は見えない。
ーーー翔琉、どうするの…?
「翔琉…?」
答えない翔琉に、あたしは無意識に名前を呼んでいた。
あたしの声に、ゆっくりとこっちを向いた翔琉。
綺麗な瞳が、あたしを見ていた。
「じゃあ、延長で」
翔琉の低い声が、あたしの耳に届く。
ーーー…え?いてくれるの?
予想していなかった答えに、あたしはびっくりした。
あんなに冷たい態度をとっていたのに。
でもそれと同時に嬉しかった。
「ありがとう」
あたしは翔琉の目を見て言った。
でも翔琉は目をそらした。