noir papillon
「っと…此処は……」
喫茶店から転移したハルの目の前に広がるのは清潔感溢れる白い壁。
すれ違うのは白衣を着た大人達。
すぐさま此処は病院だとハルは理解した。
行く宛も分からず歩みを進めていると、背後から聞こえてきた騒がしい声。
振り返ると、出口を目指す1人の少女と、それを止める数人の医師達の姿があった。
「ミヤビ」
「…やぁハル。迎えに来てくれたんだ」
駆け寄るハルの姿を目に、にこりと微笑む少女ミヤビ。
「彼女の御友人ですか?でしたら止めて下さい。彼女はまだ外に出られる状態ではない。なのにこんな無理をして、此処から出て行くと言うんですよ」
1人の医師は必死な顔でハルに話す。
何度説得しようにも聞く耳すらもたず、一向に自らの意志を曲げようとしない彼女に医師達はお手上げ状態だった。
「もう大丈夫だと言ってるのに大袈裟なんだよ。この通り、全然平気なんだから」
こんな怪我どうってことないとミヤビは身体を動かすが、どこをどう見ても大丈夫とは思えない。
額には包帯が巻かれ、右目には眼帯を、頬にはガーゼが施される。
腕は肩から指の先まで包帯で巻かれ、引きずる脚も同様である。
目視する事はできないが、服の下もきっと…
「…どこが平気なんだよ……全然、全くもって大丈夫そうにはみえねぇよ……」
「っ……」
傷口が開いたのだろう、額に巻かれた包帯は赤く滲み、そこから血が流れ出る。
その姿に呆れたハルは彼女の顔に手をかざす。
すると元気だった彼女は意識を手放し、フラリと前のめりに倒れゆく。
「完全に回復してるなら、こんな魔法効く訳ねぇだろ……?」
簡単な魔法をかけ眠らせたハルは彼女を受け止め、そっと優しく抱き上げた。