不誠実な恋
ミチルの告白が上手くいったのか如何なのか。
そんなことを考える暇も無いくらいに広い校内を連れ回され、普段体育の授業くらいでしか体を動かすことのなかったあたしはその数十分の間に疲れ果てていた。


これから人生の中でも上位に位置付けられるくらいの一大イベントを迎えようとしているのに、とんだ重労働を強いられたものだ。と、徐に止まって膝に手を付いた時だった。右斜め前方から、バツの悪そうな悲痛な声が聞こえて来た。


「見てみろ、これ」


顔を上げて首を傾げたあたしに朔也が掲げた物は、今正に血眼になって探していた答辞の原稿だった。

「あんたなぁ・・・」

人を巻き込んで連れ回して、挙句の果てにはポケットに入っていたので一件落着。そんなオチはいくら関西人と言えど望んではいない。
確かにネタ的には王道で面白いのかもしれないけれど、息が切れるほどにこき使われた側としてはたまったものではない。

「あんた…卒業式が終わったら覚悟しときや。絶対ご飯奢らせたるからな。ミチルとメガネの分も」
「いつもじゃねぇか。ごちゃごちゃ言ってねぇで急げよ。そろそろ始まるぞ」
「誰のせいや、誰の」

不条理は日常
理不尽なのも日常

この状況を諦めるなと言う方が無理というもので。
ただ黙って手を引かれながら、珍しく澄み渡った青空に眩しささえも感じていた。
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