猫 の 帰 る 城
*
扉が開くと、嬉しそうな顔で僕を出迎える真優の姿があった。
モヘアのニットにエプロンをつけた彼女は、いつもより数段完璧な化粧をしている。
寒かったでしょうと、僕の頬を撫でた手のひらはとても小さく、温かい。
真優のアパートは小さな1Kだった。
調理の後が窺えるキッチンを抜けると、テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
クリスマスらしくチキンや、手作りと思われるケーキもある。
街で見たものよりもささやかなクリスマスカラーが、シンプルな部屋で浮いていた。
「ちょっと張り切り過ぎたかな」
真優は少し恥ずかしそうに笑いながら、僕のマフラーとコートを脱がせてくれる。
しかし僕が手ぶらであることに気づくと、戸惑った表情になる。
それから様子がいつもと違うことを察して、顔色が変わった。
「…ヒロ、ワイン…」
僕は真優が言い終わる前に、その身体を抱きしめていた。
真優のにおいが鼻を抜けると、それが靄となって思考を覆った。
戸惑う彼女に構わずに、僕はその唇を塞いだ。
反射的に身を引く真優の頭を、強引に引き寄せる。
真冬の風で冷え切った僕の身体に、真優の唇は温かく、心地いい。
舌をいれると、声にならない声が漏れ、真優の身体が強張った。
わずかに震えていることに気づいたけれど、僕は頭の声に忠実だった。
唇を離すと、真優は苦しそうに息をした。
潤んだ瞳が戸惑いながら見上げてくる。
興奮と緊張で濡れた瞳だ。
「…どうしたの…」
僕は答えなかった。
答える代りに、ニットの裾から手を入れる。
すると、途端に顔を真っ赤にして僕の手首をつかんだ。
「やだ、待って、シャワー…」
「だめだ、待てない」