猫 の 帰 る 城
マンションの前で車が止まった。
着いたよと、笠原さんに言われるまで気が付かず、ぼんやりと窓の外を見ていた。
我に返って、ふと、身体に妙な違和感を覚えた。
「…なんか、だるい」
夢のせいかと思ったが、額の汗はとまらなかった。
頭は重く、ぼんやりとして、全身に気だるさがある。
シートに沈めた身体を起こすと、よりはっきりと自覚した。
「やだ、もしかして風邪じゃない」
そう言われれば、少しだけ身体も熱い気がする。
このところ、仕事が忙しく、体調管理まで気が回っていなかったからだろう。
季節の変わり目で寒暖差にやられてしまったのかもしれない。
「熱はある?風邪薬とか、ちゃんと持ってるの」
「大丈夫だよ。そんな、大したことじゃないって。明日休めば、良くなるから」
心配そうに様子を窺う彼女を制して、荷物を持ち、車を降りた。
笑顔を作り、窓越しに軽く頷くと、彼女も安心したように頷き返した。
「おやすみなさい」
テールライトが曲がり角に消えていく。
見えなくなるまで見送ったあと、視線をやると、遠く向こうに公園が見えた。
花を開かせて間もない桜の木が、わずかな外灯に照らされ浮かんでいる。
また、春が来たのだと思った。
仕事上、人よりも先取りして、何着も春らしいワンピースやカーディガンを着る。
けれど、こうして、自分の目で風物詩を見るまでは、いつも季節を実感できなかった。
あれから、二年になる。
彼と最低なさよならをして、二年という月日が経つ。
それは長くて、まだたったの二年なのかとも、あっという間で、もう二年になるのかとも、どちらにもとれる不思議な感覚だった。
二年経った。
彼はわたしの願いを、覚えてくれているだろうか。
そんな虫のいいことを考えて、ひとりで笑った。