猫 の 帰 る 城



翌朝、目が覚めるとひどい頭痛と微熱に苦しめられていた。

どうやら本当に風邪をひいてしまったらしい。


カーテンを開けると、外界はすっかり春の陽気だった。
せっかくのオフも、一日中ベッドの上で過ごすことになりそうだ。



昼前になると、笠原さんが仕事の合間に来てくれた。
心配性な彼女は、大きな袋をふたつも抱えてやってきた。


「これ、風邪薬と、水と、スポーツドリンク」


ドラッグストアの袋いっぱいに、数種類の飲み物が詰められていた。

はち切れそうなビニールをぼんやりと眺めながら、そんなに飲めないと言うと、飲まなきゃ熱下がらないでしょうと一喝される。

もう一方の袋には、インスタント食品や、おかゆ、ゼリーなどの食料がぎっしり詰まっていた。

これまた食欲がないと言うと、食べなきゃ駄目だと一喝される。


それでもしぶるわたしに、笠原さんがあれこれ食べやすいものを勧めてくるのが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
すると彼女も安心したように笑った。


寒気がひどくなってきたので、布団をかぶった。

頭痛のせいか、視界はぼんやりとして、笠原さんの顔もはっきりとしない。


「飲み物、冷蔵庫に入れといたから、ちゃんと飲むのよ、熱下がらないから」


曖昧に頷いた。暖かな日差しが心地いい。

ずっとこんな気候が続けばいいのになあと、毎年思うことを今年も思った。


「それと、事務所に届いたラブレター、置いておくから。元気になったら、読んであげて」


徐々に重たくなってきた瞼の向こうで、彼女は笑っていた。
その微笑みに、うっすらと涙がある気がする。


なに、泣いてるの


視界は曖昧になって、意識が薄らいでいく。
いま見ているものが現実なのか、夢なのか、ごちゃごちゃになって、わからない。

頭を働かせるエネルギーもないから、おとなしく目を閉じた。

かすかな意識が、春の日差しに掻き消された。















< 114 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop