猫 の 帰 る 城
翌朝、目が覚めるとひどい頭痛と微熱に苦しめられていた。
どうやら本当に風邪をひいてしまったらしい。
カーテンを開けると、外界はすっかり春の陽気だった。
せっかくのオフも、一日中ベッドの上で過ごすことになりそうだ。
昼前になると、笠原さんが仕事の合間に来てくれた。
心配性な彼女は、大きな袋をふたつも抱えてやってきた。
「これ、風邪薬と、水と、スポーツドリンク」
ドラッグストアの袋いっぱいに、数種類の飲み物が詰められていた。
はち切れそうなビニールをぼんやりと眺めながら、そんなに飲めないと言うと、飲まなきゃ熱下がらないでしょうと一喝される。
もう一方の袋には、インスタント食品や、おかゆ、ゼリーなどの食料がぎっしり詰まっていた。
これまた食欲がないと言うと、食べなきゃ駄目だと一喝される。
それでもしぶるわたしに、笠原さんがあれこれ食べやすいものを勧めてくるのが可笑しくて、思わず笑ってしまう。
すると彼女も安心したように笑った。
寒気がひどくなってきたので、布団をかぶった。
頭痛のせいか、視界はぼんやりとして、笠原さんの顔もはっきりとしない。
「飲み物、冷蔵庫に入れといたから、ちゃんと飲むのよ、熱下がらないから」
曖昧に頷いた。暖かな日差しが心地いい。
ずっとこんな気候が続けばいいのになあと、毎年思うことを今年も思った。
「それと、事務所に届いたラブレター、置いておくから。元気になったら、読んであげて」
徐々に重たくなってきた瞼の向こうで、彼女は笑っていた。
その微笑みに、うっすらと涙がある気がする。
なに、泣いてるの
視界は曖昧になって、意識が薄らいでいく。
いま見ているものが現実なのか、夢なのか、ごちゃごちゃになって、わからない。
頭を働かせるエネルギーもないから、おとなしく目を閉じた。
かすかな意識が、春の日差しに掻き消された。