猫 の 帰 る 城
本をバッグに入れ、寝間着にスプリングコートを羽織ると、そのまま家を飛び出した。
マンションの下であたりを見渡してみたけれど、都合よくタクシーなんて通らない。
仕方がないから、全力で走り出す。
車が行き交う遊歩道を、力任せに駆け抜けていく。
いつの間にか頭痛も、身体の重さも吹き飛んでいて、ただひたすらに、春風に押されて走り続けた。
こんなに全力で走るのはいつぶりだったかと、ふいに考えて、あの夏、彼と別れたあの日が最後だったと気づいた。
鮮やかで、目を当てると眩しくて、甘くてにがい。
額に汗を浮かべて、近くにいるだけじゃ足りなくて、引き寄せて、引き寄せられて、突き放して、突き放された。
吐き出した言葉は取り戻せない。
思い通りに行かなくて、もがいてみたくて、譲れなくて、受け入れたくない。
苦しくて、傷つけて、引っ掻いて、ずたずたにした。
ずるい。
こんな格好良いことなんてしないで。
春風に流れる涙をぬぐった。
胸を埋め尽くすこの感情に、そんな余裕はないのに。
溢れてとまらないのは、あなたのせいでしょう。
優しく笑う、その顔を思い出して、変わらずにそこにある愛しさに、強く願った。
どうか。
どうか、この手が、届きますように。