聴かせて、天辺の青


何も恥ずかしがるようなことじゃない。それに海斗は26歳、未成年でもないし悪いことをしているわけではないんだから。


だけど、この年頃から吸い始めるって少し気になる。いや、かなり気になる。


よほど何か、むしゃくしゃしたことでもあったのかな? そんな風には見えなかったけど。


「何かあったの?」

「べつに、何にもないって。ただの気分転換だよ」


素っ気ない返事をして、海斗は私から離れていく。まるで逃げるように……と思うのは私の思い過ごしだろうか。


たぶん、これ以上は追及してはいけないんだろう。もう聞くなと、海斗の背中が訴えているように見える。


「ふぅん、あまり吸いすぎないようにね」

「ああ、わかってる。ありがとう」


ふと振り向いた海斗の笑顔は、いつもより優しい。それが私に対する笑顔なのか、優しさなのかは疑問だけど。


ひとつわかったことは、海斗が何かを隠していること。


追及しなくても、話したくなったら海斗自身から話すはず。


再び品出しを始めた海斗の向こうから、海棠さんがやって来る。荷箱を重そうに抱える彼を見て、海斗が大きく息を吐いた。



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