聴かせて、天辺の青
衣料品店前にある駐車場を臨むベンチに腰を下ろし、彼の買物が終わるのを待っていた。彼と一緒に店内を見て回ることもないし、私自身何も欲しいものもない。
それに店内に入る前、彼に言われたことが気に入らなくて未だにイライラが収まらない。
「ここで待ってるから、もし何かあったら呼んで」
と言ったら、彼は答えた。
「どうやって呼ぶの? 店内から手を振ったらいい?」
ちょっと嫌味な言い方で。
どうせ呼ばれるようなことはないだろうからと、見送る挨拶代りに言ったのに返されるとは思わなかった。
「だったら携帯電話の番号、教えておこうか?」
教える必要もないだろうと思っていたけど、仕方なく提案した。
彼は肩が揺れるほど大きく息を吐く。
「いや、要らない。俺の携帯電話壊れてるから」
きっぱりと断った上、さらに追い打ちをかける言葉を付け加えて。
「アンタに突き落とされた時に、一緒に海に落ちたんだ」
彼は冷ややかな目で私を見下ろしてる。
私は、何と言って返せばいい?
彼は、どんな答えを待ってるの?
「ごめん、弁償する」
「いらない、どうせ使わないし、中身捨てようと思ってたから」
私の言葉を畳み掛けるように、彼は強い口調で言って目を逸らした。
いったい、何なの?
イライラするというより、率直にむかつく。