聴かせて、天辺の青


それだけ言い残して、彼は店内へと入っていった。


広い駐車場に停まっている数台の車、その向こうの道路を往来する車を眺めながら何度も深呼吸。気持ちを落ち着かせようとして。


昨日、あんなに弱気なことを言ってたくせに。


あの態度は何?


私の気持ちを察してくれたのか、通り過ぎていく風は冷たいけれど優しい。髪を撫でつけてくれる心地よさに目を閉じて、私はベンチの背もたれに体を預けた。


ふわりと頬を包み込んでくれている感覚。じんと伝わってくる温もりが、苛立っていた私の心までも鎮めてくれている。


風を感じようと耳を澄ませたけど、もう止んでしまったのかな。


柔らかいものが、唇に触れた。


何だろう……


目を開けようとするのに、開けてしまうのが惜しい。


もう少し、このままでいたい。


こうして頬を包んでくれている温もりが心地よくて、私はまどろみの中を漂っていた。自分がどこに居るのか、何をしているのかさえも忘れて。


ようやく思い出させたのは、コーヒーの香り。


鼻先を掠めるコーヒーの香りを追い掛けて、ゆっくりと目を開けた。


視界の中には自分の膝ともうひとつ、隣りに並んだ彼の膝とだらりと垂れた彼の腕。隣りに彼が座っているとわかったけど、何かおかしい。


ごくっと何かを飲み込む音が、耳に近いところから聴こえた。というか、頭の辺りから響いてきた気がする。


彼がコーヒーを飲んだんだ。
だけど……





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