聴かせて、天辺の青


「昨日はごめん、飲み過ぎたかも……あんまり覚えてないんだ」


恥ずかしそうに、申し訳なさそうに頭を下げる彼は彼らしくなくて変な感じ。いつもの無愛想は、いったいどこに消えたのか。


いやいや、それよりも覚えてないって本当に?


「え……ホントに覚えてないの? どこまで覚えてるの?」

「皆で飲んだ後、車に乗ったところまでは覚えてるけど、その後……気づいたら朝だった」


嘘だ、そんな訳ない。


白瀬大橋を渡りたいって言ったのも、大見半島に渡って海が見たいと言ったのも、桜が観たいから車を停めてと言ったのも彼。帰ったら即撃沈じゃなくて、ちゃんとお風呂に入ってたっておばちゃんも言ってた。


弱音を吐いたことが恥ずかしくて、嘘をついてるんじゃないか。しらばっくれてるんじゃないかと疑いは消えない。


「大橋を渡って海を見た後、桜を観たことも覚えてない? あなたが行きたいって言い出したんだよ?」

「ごめん、覚えてない。俺、何か言った? 酷いこと言ったなら謝るよ」


ぺこりと頭を下げる彼が、嘘をついているようには見えなかった。


本当に、酔っ払ってたんだ。


海辺の堤防で私を押さえたのも酔った勢い。冗談と言った彼の言葉通りだったと納得できるけど、桜の下で私を後ろから抱き締めて引き止めたのは?あれも酔った勢い?







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