聴かせて、天辺の青


でも、あの時彼が吐き出した言葉は、嘘じゃなくて本音だと思う。


『お願いだから、もう少しだけ、ここに居させてくれないか』


私の耳元ではっきりと告げた彼の声は、酔っていたとは思えない。たとえ彼が覚えていなくても、私には忘れられない言葉。


彼がテーブルに肘をついて、ゆっくりと体を起こす。


「ところで、ちょっと聞きたいんだけど……」


そっと店内を見回して、声を潜めた。


「なに?」


やっぱり、本題は他にあったんだ。


昨日のことを覚えてないっていうのも大きな問題だけど、それ以外に話したいことって何?


疑問を抱きながら見つめた彼の目は、真剣そのもの。


「河村さんと藤本さんって、どんな関係なの?」


彼の口から発せられた言葉は、あまりにも意外だったけど的を射てる。それは私も知りたかったこと。


だけど誰に訊ねるわけにもいかず、確かめる当てがなかったんだ。


「は? どうして?」

「いや、見たから。二人が事務所で……してるとこを」


言いにくそうに、もごもごしながら言うから肝心なところが聴き取れない。ちょっとだけ、イラっとしてしまう。



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