聴かせて、天辺の青


海斗が強引に迫ったから?
断りきれなくて?


それでも許されることじゃない。


「海斗、よく考えてよ。そんなことしたら、河村さんだけじゃなくて娘さんだって傷つくんだよ?」


さっきよりも、海斗の横顔が幾分険しくなっている。


「俺が無理矢理に迫ったと思ってるだろ。河村さん、離婚するんだ。だったら問題ないだろ?」


ようやく答えてくれた海斗の言葉は、最悪の事態を連想させた。


やっぱり。
河村さんに強引に迫ったのは海斗。海斗が河村さんの家族を壊したんだと。


少し前にスーパーで初めて会った河村さんの旦那さんは、柔らかな声と包み込んでくれるような優しさに満ちているように見えた。三人ともとても幸せそうな、仲の良い家族に見えたのに。


「海斗……どうして? どうして河村さんなの?」

「俺には彼女しかいない、彼女じゃないとだめなんだ」

「河村さんはだめだって、最初から分かってたでしょう? だったら、諦めるべきじゃない? どうして家庭を壊すようなことをしたの?」

「俺が壊したんじゃない、最初から壊れてたんだ」


険しい表情をしているのに海斗の口調はとても穏やかで、自分は間違っていないと言い切るような力強さを感じさせる。つい感情的になって声を荒げる私を宥めるように。



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