聴かせて、天辺の青


「ところで、例の件は?」

「うん、聞いたよ」



振り向くと、問いかけた彼の顔が思ったよりも近くにあったから驚いた。咄嗟に固まってしまったのに気づいて、慌てて彼が手を離す。


「ごめん、悪い……」


ばつが悪そうに目を逸らした彼の表情が強張った。彼の目が、何かを捉えている。


視線の先に、何かある?


「どうしたの?」


問い掛けながら、彼の視線を追った。ぞわりとした気持ち悪さがこみ上げるのを抑えながら。


見えたのは、二人の女性。
距離が離れているから、はっきりと顔は見えないけれど比較的若そうだ。


売店の建物の真横に広がる野外の休憩スペース。開け放たれた芝生の広場の海に面したベンチに座った女性らが、私たちを見ている。何か話しながら窺うような素振りで。


きっと売店が開くのを待っていたのだろう。駐車場には、私たちが来た時よりも車の数が増えている。


「お客さんだ、早く店開ける準備しよう」


彼の腕を引き、急いで事務所へと入った。


ただのお客さんだ。
彼に用がある訳じゃないと言い聞かせて。




< 224 / 437 >

この作品をシェア

pagetop