聴かせて、天辺の青

「何を?」


わかってるのに白々しく聞き返してしまった。まるで悪あがき、無駄な抵抗。聞きたい気持ちと聞きたくない気持ちが混濁してる。



「海棠さんのこと」



突き刺すような痛みが胸に走る。



「あ、海棠さん……」

「うん、あの人きっとブルーインブルーのサポートメンバーのヒロキだよ」



フリーマーケットでCDを手に取っていた海棠さんの姿が浮かんだ。CDを見つめて息を吐く横顔は、昔を懐かしんでいたのだろうか。



「嘘……、ただの似てる人でしょ?」

「間違いないよ、私ライブ行ったことあるし、ファンクラブ入ってたし。キーボードのヒロキだよ」



麻美の自信に満ちている。
確か麻美は高校の時からファンだと公言していた。ライブに行ってたのなら、サポートメンバーのことを知っていてもおかしくはない。



「こんな所に居るわけないよ、今でも活動は続いてるんでしょ?」

「続いてるけど……、もう二年も曲出してないし、メンバーの不仲説があるみたい、解散も時間の問題だって」



周りを窺いながら麻美が声を潜める。
花見の夜、彼の言ってた意味がわかった気がした。



『一度だけ成功したと思った夢。掴んだと思ったら、あっという間にすり抜けていった……』



あの時、彼の顔に滲んでいたのは夢を掴み損ねた悔しさと失望。


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