聴かせて、天辺の青
「おっ、負けたかあ……、瑞香ちゃんの方が早かったか」
突然飛び込んできた和田さんの声に、どきっとさせられた。慌てて口を噤んで、麻美と顔を見合わせる。
すると麻美は、
「確かめてもいい?」
言うなり振り返った。
すごく、嫌な予感がする。
「ちょっと待って、麻美……」
引き止めようとして伸ばした手をするりとかわして、麻美が歩き出す。臆することなく歩き出す先には、もちろん彼。数歩先で和田さん達と笑い合う彼が、麻美へと振り向いた。
「海棠さんは東京に住んでたんですか? 仕事は何されてたんですか?」
私が追いついた時には、麻美は口を開いてしまっていた。
そんな言い方したら……
彼の顔から、あっという間に笑みが消えた。
「フリーター」
ひとこと返した彼は『だから何?』と言いたげな不機嫌な顔をしてる。
せっかく機嫌が直ったと思っていたのに、また逆戻り。何て事をしてくれたんだ、と麻美に腹立たしさを覚えずにはいられない。
早くこの場を離れようと、麻美の腕を引いたけど手遅れ。
「麻美、行こう……」
「海棠さんって、ブルーインブルーのヒロキですよね?」
私の言葉を遮って、麻美が問いかけた。不機嫌な彼の顔が、みるみる引き攣っていく。