聴かせて、天辺の青
彼は突き刺すような目で麻美を睨んで、
「人違いです」
きっぱりと力強い口調で言い切った。
数日前、売店での出来事が蘇る。
二人の女性にしつこく絡まれた時、彼は今と同じような怖い顔をしていた。あの時は今よりももっと強い、まるで怒鳴りつけるような口調だったけど。
もう、彼のあんな顔は見たくない。
これ以上何も聞かないで。
彼を追い詰めるようなことはしないでほしい。
「麻美、やめて」
思いきり、麻美の腕を引っ張った。
ぐんと後ろに傾いた体を支えようとしながら、麻美が振り返る。
「瑞香危ないってば、はなしてよ」
麻美の不快な声を出して、私の手を解こうとする。
「ちょっと喉渇けへんか、何か飲みに行こか?」
驚いて見ていた和田さんが、彼の肩を抱いて歩き出す。状況を察してくれたらしい。
和田さん達とともに離れていく彼を見送りながら、麻美がじたばたしてる。私は絶対に腕を離さないように、引き止めておくのに必死だった。