聴かせて、天辺の青

それから五分も経たないうちに、紗弓ちゃんが戻ってきた。



「彼、すごいね。子供の扱い上手いかも」



と言って、紗弓ちゃんは上機嫌。



まもなくピアノの音が聴こえてきた。
彼は部屋に閉じこもっていた小花ちゃんを見事に連れ出して、ピアノの練習を始めたらしい。



「海棠さんが説得したの?」

「そう、ちょっと話してピアノ弾こうって言ったら、ころっと顔色が変わってね」



紗弓ちゃんは嬉しそうだけど、複雑な表情。紗弓ちゃんがいくら説得しても効かなかったのに、彼が少し話し掛けただけで機嫌が治ったのだから。



「よかったね」

「うん、助かったよ。友達とはまた今度って話してるから、小花も納得してくれると思う」



ほっとしたように紗弓ちゃんは息を吐いた。



やがてピアノの音色が響く中、聞き慣れない音が紛れてくる。



「あれ、私の携帯? ごめん、出てくれる?」



食事の準備を終えて、黙々と片付けていたおばちゃんが振り返った。
和室の棚の上に置いてあるおばちゃんの携帯電話が、ぶるぶると震えながらゆったりとしたメロディを発している。



一番近くにいた紗弓ちゃんが取り上げて、目を丸くした。





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