聴かせて、天辺の青

「英司からだ、珍しい……、もしもし?」



紗弓ちゃんの声が英司の名前を呼ぶ。
英司の名前を聞くのは久しぶりだったから意外。



だけど、平日のこんな時間に電話してくるのも意外だと思った。普通なら仕事をしているはずの時間なのに。



何かあったのかもしれないと、耳を傾けてしまう。
英司の声なんて聴こえるはずないけど、紗弓ちゃんの言葉から会話の内容を想像できる。



おそらく英司は、どうして紗弓ちゃんがここにいるのかと問い掛けているんだろう。紗弓ちゃんが『明日帰る』と何度も繰り返している。



手を洗い終えて、おばちゃんがやってきた。紗弓ちゃんから携帯電話を受け取る時、顔に滲んでいた不安は英司の声を聴いたらみるみる消えていく。



「英司、まだ仕事中だよね。何の用だろう」



気になっていることを、紗弓ちゃんがぽつりと溢した。



「何だろうね、今度の連休のことかな?」



用があるなら仕事が終わってから電話してくるはずだけど、毎日残業で帰りが遅くなるから時間の空いた今かけてきたのかもしれない。



とくに大きな話題もなく、おばちゃんは淡々と話してる。





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