聴かせて、天辺の青

すると、その日の夕方に海斗と海棠さんが家にやって来た。



きっと河村さんに明日から出社すると言い切ったから、様子を見に来たに違いない。海斗と彼という組み合わせが意外だったから、少しだけ驚いたけど。



「河村さんに言われて来たんでしょう?」

「その通り、俺が見極めに来てやったんだ」



私が問うと、海斗は包み隠すことなく答える。にやっと笑顔を見せながら海棠さんを振り返って、まだ何か言いたそうにしてる。



海棠さんの手には紙袋。
パリッとして新しさの感じられる紙袋は、近所のケーキ屋さんのものだ。
もしや?
と、期待に胸がざわめく。



海斗に促されるように、彼が紙袋を差し出す。



「それは? 何?」



尋ねなくてもわかってるのに……、尋ねないわけにはいかない。海斗があまりにも尋ねてほしそうな顔をするから。



「手土産だ、まさか手ぶらで来るわけにいかないだろう」



満足げな笑顔の海斗の後ろに隠れるように、彼がくすっと笑う。私もつられて笑ってしまいながらも、ちゃっかり紙袋を受け取った。





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