聴かせて、天辺の青

お客さんの波が引いて閑散とした売り場を素通りして、海斗は店の出入り口へと向かってく。売り場の一角で品出しをしている海棠さんが、ちらりと振り向いて私たちを見送る。



思った通り、海斗は店の外へ出た。
駐車場を見渡した海斗は、自分の車を確認して納得したように口を開く。



「英司さ……、すぐに帰るらしいな、泊まらないで、その日のうちに帰るって聞いたよ」

「誰に?」

「おばちゃんに、今朝聞いた」

「ふぅん……そうなんだ」



誰に聞いたか、なんてわかっていた。
海斗は英司とは連絡を取り合っていないし、帰ってくることも英司から聞いてないと言ってたから。



それよりも気になるのは、どうして急いで東京に戻ってしまうのか。きっと仕事が忙しいのだろうとは思うけど、一泊ぐらいしてもいいのに。



「瑞香は知ってた?」

「知らない、連休に帰ってくるっていうことしか聞いてないから」

「ああ、連休の初日に帰ってくるって言ってたな。連休中も仕事なのかな……、よくやるよ」



海斗は鼻で笑って、ゆっくりと歩き出す。



連休の初日と言えば来週の土曜日。
今朝、海棠さんが言った。
来週の土曜日に出かけようと、遠くに行きたいと。



これはただの偶然?




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