聴かせて、天辺の青

いや、もしかすると偶然じゃないのかもしれない。彼は英司が帰ってくるのを知っていて、出かけようと誘ったんじゃないのか。



私を英司と会わせないために。
きっと彼は、私のことを気遣ってくれたんだ。



ガラス越しに店内を覗いたら、彼は配送箱を抱え上げて陳列棚へと運んでいく。彼の姿を視線で追いながら、『ありがとう』を心の中で言った。



「私……、その日は出かける予定があるから。バイトも休みもらおうと思ってたんだ」

「そうか……わかった」



海斗は何にも突っ込んで聞かないから、私もそれ以上は話さないことにした。
彼にも、何にも言わないでおこう。



ゆっくりと歩いていた海斗が、足を止めて振り返る。まだ何か言い足りないのかと思ったら、海斗の視線は駐車場に停まっている自分の車へと。



きゅっと眉を寄せて怖い顔をして、私へと体を傾けてくる。



「なあ、何日か前から気になってる車があるんどけど、ちょうど今ぐらいの時間に来て一時間ぐらい停まってるんだ」

「どこ?」

「あんまり見るなよ、俺の車のひとつ飛ばして隣の、シルバーの車」



海斗に言われた方を見ると、確かにシルバーの小型車が停まってる。日差しが反射して見えにくいけど、運転席には女性らしき姿。



< 333 / 437 >

この作品をシェア

pagetop