聴かせて、天辺の青

「海斗の知り合いじゃないの?」

「知らないよ、店内に入ってこないから買い物客ではなさそうだし、降りたのを見たことないし、気になるだろ?」



海斗が声を潜める。シルバーの車に悟られないように、店の横にあるゴミ箱を片付けながら。
私も海斗を手伝う素振りで車を窺う。



運転席の女性が店内を覗き見るように、そっと背筋を伸ばした。



「連れが買い物してるんじゃない? 店の方を見てるから」

「いや、店には誰もいないだろ」



海斗の言う通り、店内にお客さんはいない。いるのは品出しをしている海棠さんだけ。
考えたくはないけれど、口から溢れ出てしまう。



「海棠さん?」

「だろうな、以前にもアイツ、絡まれてただろ? その時の彼女じゃなさそうだけど仲間かもしれないな」



ゴミ箱に大きなビニール袋をセッティングしながら、海斗が頷く。



彼が女性二人に絡まれた時のことが蘇った。
続いて脳裏に浮かんだのは、温泉で麻美に言われた時のこと。



誰かが、ここに彼がいることを話したのかもしれない。



麻美が?
疑ってはいけないと、制止する気持ちは後からついてくる。




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