聴かせて、天辺の青

「曲を盗まれたんだ、俺の書いた曲が気に入らないからといって、アイツらは他のアーティストに全部売ったんだ」



海棠さんは声を震わせながらも、私から目を逸らそうとはしない。潤んだ目に悔しさが滲んで揺れている。



『俺が周りのことを考えても、周りは俺のことを考えてはくれない。どうせ、空回りなんだ』



初めて会った日に、彼がおばちゃんの家で言った言葉。抑揚のない声だったけれど、目を伏せた彼は膝の上で握り締めた拳を震わせていた。



彼にとっては、音楽の方向性の相違と単純に片付けられるような問題ではないだろう。
彼が曲を作ってきたのはブルーインブルーのため。それ以外の誰かが世に送り出すために作ってきたんじゃない。



「俺が曲を書いてきたのはアイツらのためでもあったけど、俺自身のためでもあった。アイツらが俺に代わって歌ってくれることに感謝していたのに、アイツらは……」



ぎゅっと唇を噛んで、海棠さんが目を伏せた。
私はただ、震える彼の体を抱きしめることしかできない。掛けてあげるべき言葉が見つからなくて、私自身も悔しくなってくる。



「海棠さん、私は裏切ったりしないから……絶対に」



私が掛けられる精一杯の言葉は、自分自身への誓いでもあった。





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