聴かせて、天辺の青

『二年も曲を出していない』
『メンバーの不仲説』



麻美の話していたことが脳裏をよぎる。
海棠さんが東京を離れた理由は、きっと音楽活動上のトラブル。根拠もなく単なる想像でしかないけれど、今まで彼が言えなかった理由から考えられるのはそれしかない。



「謝ることないよ、もう音楽はやめたの?」

「やめた。俺はもう、ヒロキじゃない。アイツらとは関係ないし、これからも関わるつもりはない」



吐く息とともに溢れた声は力なく、風にさらわれて消えていく。
彼が『アイツら』と呼ぶのは、かつて一緒に仕事をしていた仲間。メンバーの不仲説は本当だったのだと思い知らされる。



だけど私が原因を知ったところで、何が変わるわけでもない。



今こうして私を抱きしめてくれているのは海棠さん。彼がここに来たときから、初めて会った時から私には海棠さんでしかなかったのだから。



「話してくれてありがとう、昔のことなんて気にしないよ、私にとって海棠さんに変わりはない、今ここにいる海棠さんがすべてだから」



海棠さんの背中に回した腕に力を込めた。
もう、これ以上は何も追及しないから……と思いを込めたつもり。



それなのに海棠さんは、まだ話すことを望んだ。まっすぐに私を見つめた彼の目が、『聞いて』と告げる。






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