聴かせて、天辺の青

「瑞香……」



どうしてこんな所に? 


後に続けて言いたげな顔をして、英司が口を噤んだ。驚きと戸惑いが入り混じった表情には僅かな翳り。



その訳はすぐにわかった。
気まずそうな英司の隣には若い女性。見た目は私と年は変わらなさそうだけれど、きちんとした化粧と身なりが私とは一線を画している。



だけど彼女が英司にとって特別なのだということだけは、はっきりと読み取ることができた。英司に寄り添う彼女の表情に、不安が覗いている。



「英司、久しぶり。帰って来てたんだね」



意識しながら声のトーンを上げて、笑顔で驚いてみせた。帰ってくると聞いていたのに思いきりしらばっくれて、隣の彼女なんか見えてないふりをして。



「ああ、今帰るところなんだ。瑞香こそ、こんな所まで何しに来たの? びっくりしたよ……、なんとなく似てる人がいると思ってたんだ」



不自然なほど口数が多いのは動揺しているからだろう。
戸惑いの消えないまま答える英司の目は、決して私を捉えようとはしてくれない。英司の意識は常に隣にいる彼女に向けられて、時折気遣うように首を傾ける。



「もう帰るの? ゆっくりして帰ったらいいのに、相変わらず忙しそうだね」



嫌味でもなく自然と口から出てしまった。

< 356 / 437 >

この作品をシェア

pagetop