聴かせて、天辺の青

帰ろうと駐輪場へと向かう私たちを追ってきたのは海斗だった。



「二人とも今日はごめん、変な思いさせて」



息を整える間もなく海斗が頭を下げる。海斗の後ろに河村さんの姿は見えないから、こっそり確かめるなら今かもしれない。
そう思ったけれど。



「気にしないでよ、海斗も河村さんも悪くないんだし。彼女が勝手に乗りこんできたのが悪いんだから」



言葉になって出てきたのは本心とは違う遠慮の固まり。海斗とは今さら遠慮するような間柄ではないにの、事が事だけに言い出しにくい。
ほっとしたように海斗が小さく頷く。
この件は一件落着だと、海斗も私も思ったはずだった。



「河村さん、本当に大丈夫ですか? 彼女、何だったんですか?」



穏便に収まると安心しきっていた海斗に、いきなり問い掛けたのは海棠さん。想定外の質問に海斗も私もとっさに言葉が出てこなくて、ただ顔を見合わせるだけ。



そんな私たちを見て、ようやく失言に気づいた海棠さんが目を見開いた。
「あっ……」と声を漏らして。





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