聴かせて、天辺の青


「吉野さん? 道の駅でヒロキと一緒に働いてたの?」

「はい、里緒さんが店内に入ってきて一番最初に話したのが私でした」



こんなことを言って、里緒さんに通じるのだろうか。


「ああ、思い出した。あの時の……、ヒロキがいろいろとお世話になったみたいで本当にありがとう」



私のことをどこまで思い出してくれたのかはわからないけれど、里緒さんはワントーン上がった声で丁寧にお礼を言ってくれた。



ようやく話が通じそうな雰囲気になったから、ほっとして強張っていた体の力が抜ける。



「いいえ、こちらこそ。突然電話してしまってすみません。海棠さんと話したいことがあるんですが、連絡先がわからないので教えて頂けませんか?」

「ごめんなさい、それはできない。吉野さんのことを疑ってるわけじゃないのよ、彼の連絡先が他の人に漏れたりしたら困るの、たとえば彼のファンだった人に漏れたりしたら……どうなるかわかるでしょう?」



はきはきしながらも彼女の口調はほどよく柔らかくて、棘なんて全く感じられない。だけど答えは私を完全に否定するものだったから、これ以上何を言えば良いのかわからなくなってしまっていた。



里緒さんの言ってることはもっともだから、反論することができない。






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