聴かせて、天辺の青
私が故意に誰かに話してしまう可能性、私に悪意がなかったとしても事故として漏れてしまう可能性だってある。
もし海棠さんを好きだという人に漏れてしまったとしたら、彼だけでなく連絡先を教えた里緒さんにも迷惑がかかることになる。以前に道の駅に彼のことを尋ねてきた女性もいる。彼女たちのような人が知ったとしたら、きっと真っ先に彼に連絡するに違いない。
いろんな可能性が考えられるから、個人の都合で勝手な行動はできないに決まってる。
私ひとりのために、彼や里緒さんや事務所の人たちに迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
「本当にごめんなさい、意地悪に聴こえてしまうかもしれないけど、そうじゃないの、わかってくれるわよね?」
里緒さんの申し訳なさそうな声は、私の頭に残ることなく素通りしていく。
受け入れたくない答え、だけど受け入れなければならない現実。自分の中で気持ちの整理がつかなくなってくる。
「わかりました。私こそ何にも考えないでお願いしてしまって、すみませんでした」
「謝らないで、吉野さんにはお礼を言わなきゃいけないぐらいなんだから。ヒロキは少しずつだけど夢を取り戻しつつあるの、しばらくここを離れたことで気持ちの切り替えができたんだと思う」
里緒さんの発した『夢』という言葉が、頭の中をぐるぐると駆け巡る。
彼の取り戻した『夢』を私は知らない。