聴かせて、天辺の青
「大丈夫、早まったりしないよ」
肩に乗っかった腕を解いて振り向いた。
見上げたら、待ち焦がれていた顔。もう二度と会えないと諦めていた彼がいる。
「瑞香、ごめん」
頼りなさそうに目を細める彼の胸に飛び込んだ。
嬉しかっただけじゃなく、今の私の顔を見られたくないから。溢れ出てくる涙はもう止められそうにない。
「ごめんじゃない」
ぎゅうっと背中に回した腕に力を込めたら、彼も同じように強く抱き締めてくれる。力を入れるほどに、彼も応えるように力を込めてくれる。
「許してもらえないかと思った」
「バカ、許してないよ……泳ぎに行こうって約束したのに」
「瑞香、許して。連絡できなくてごめん、ホントはすぐに帰るつもりだったんだけど葛原さんの体調が良くなかったから……」
「葛原さんはもう良くなったの?」
顔を上げると彼の表情は固く、噤んだ口元は今にも震えそうに強張っている。
聞いてはいけなかったのかもしれない。
「葛原さんとお別れしてきたよ、葛原さんのために曲を書いてた、彼女が余計な事を言ったみたいで……ごめん」
彼女とは里緒さんのこと。私が彼の連絡先を教えてほしいと電話した時に、里緒さんが拒否したことを言っているに違いない。