聴かせて、天辺の青
だけど私の予想は違ってた。
里緒さんは私からの電話をちゃんと彼に話してくれていたのに、私は里緒さんが彼に話すとは思わなかった。きっと里緒さんは私のことを疎ましのだろうと思い込んでいた。
だから彼には黙ったまま、私のことは自然に消そうとしているのだと。
そんな風に考えていた自分が恥ずかしくてたまらない。
「ごめんなさい、私、里緒さんのことを疑ってた」
「仕方ないよ、俺が連絡しなかったのが悪いんだ」
彼の手が頬を包み込む。
すれ違っていた気持ちが、やっと上手く綺麗に重なるみたいに胸の鼓動が落ち着きを取り戻していく。溢れて止まらなかった涙もようやく引っ込んできた。
「帰ってきてくれて、ありがとう」
「瑞香、ここに来てくれてありがとう、あの歌聴いてくれたんだね」
「『沈丁花』だよね? 聴いたよ、麻美が教えてくれたの、でも信じられなかった、河村さんと麻美は絶対に信じてたけどね」
「連絡先がわからなかったから気づいてくれるか不安だったんだ、河村さんと麻美さんに感謝しなきゃ、よかった……会いたかった」
ゆっくりと彼の顔が近づいてきて唇が触れる。
温かくて懐かしくて優しい感触。身体中が熱を帯びて、塞いでいた心が溶かされていく。
ずっと待っていた温もりが、私自身を満たしていく。