聴かせて、天辺の青
「海棠さん、泣いてたのよ……肩を震わせてね。私はてっきり、まだ調子が悪いのかと思って『大丈夫?』って聞いたら『違う』って涙を零して……」
そう言いながら、おばちゃんまで泣きそうな顔をしている。きっと彼が泣いた時も、おばちゃんは今と同じ顔をして彼を受け止めたんだ。
おばちゃんは優しすぎる。
泣いたぐらいで……と思ったけど、胸がちくちくと痛むのはなぜだろう。
英司が滅多に泣かない人だから、おばちゃんは彼が泣いたことに衝撃を受けているだけなんだ。
そんなことくらいで私は流されたりしないと思いつつも、返す言葉が見つからない。
「瑞香ちゃん、私はね、泣いたからいい人だと思ってる訳じゃないの。だけど、あの時の彼の目は、嘘をついたり悪いことができる人のものじゃなかったと思う。ねえ、少しだけ信じてあげられない?」
縋るような目をしたおばちゃんが、ぎゅっと私の手を握った。私さえ頷いたら、彼をここに置いてあげられるんだと訴えてる。
「おばちゃん? 私が嫌だって言ったら彼を追い出す? 追い出さないでしょう?」
尋ねたら、おばちゃんは小さく頷いた。僅かに表情を緩ませて。
もう、おばちゃんの心は決まってるのだから。